鳥取大学からのお知らせ

工学研究科の阿部准教授らが高感度集積型紫外線光検出器の開発に成功

2014年12月16日

高感度集積型紫外線光検出器の開発に成功

-医療用高性能紫外線光検出器の実用化へ前進-

大学院工学研究科の阿部友紀准教授らが、高感度集積型紫外線光検出器の開発に成功しました。

ポイント

  • 有機-無機ハイブリッド型紫外線高感度光検出器(アバランシェフォトダイオード;APD)において,有機保護膜等により低暗電流化(低ノイズ化)・安定動作化に成功
  • 紫外線に特化した低暗電流・低電圧動作の集積型APDを世界で初めて実現し,集積化の指標となる光信号のクロストークが検出限界以下であることを実証

 

要旨

 鳥取大学大学院工学研究科の阿部友紀准教授らは,無機材料と有機材料を組み合わせた有機-無機ハイブリッド型紫外線高感度光検出器(アバランシェフォトダイオード;APD)の低暗電流化(低ノイズ化)・安定動作化,および集積化に成功しました。

まず,有機膜による表面保護層により実用レベルの低暗電流化・安定動作化(100日,500回以上)を実現しました。さらに,3素子のAPDアレイを作製し,世界で初めて紫外線に特化した低暗電流・低電圧動作の集積型APDを実現し,光信号のクロストークが検出限界以下であることを示しました。

本研究が発展することにより,1次元・2次元の紫外線集積型APDが実現可能となり,医療・天文計測・紫外線ディスクなどの分野への応用が期待されます。

本研究は,鳥取大学大学院工学研究科情報エレクトロニクス専攻の研究グループによる研究成果で,学術雑誌「Applied Physics Express」に掲載予定です。掲載に先立ち近日中にオンライン版にて発表される予定です。

1. 研究背景

近年,医療,科学計測,天文計測,次世代光ディスク用,火炎センサー用などの紫外線光検出器(光センサー)に注目が集まっています。現在の医療用PET(陽電子放射断層撮影)に必要な微弱放射線の検出には,放射線を可視光に変換するシンチレータを介して真空管式の光電子増倍管で検出する方式が用いられています。そのため,応答速度が遅くかつ装置が大型で壊れやすく高価になるという問題点があります。一方,放射線を紫外線に変換する高速シンチレータ(LuAG:Prなど:応答速度20 ナノ秒)を用いることで,高速PETシステムが実現可能になると期待されています。そこで,光電子増倍管を全固体素子である紫外線光波帯アバランシェ・フォトダイオード(APD)に置き換えることができれば,上記問題が解決されるだけでなく光検出器の集積化も可能となります。しかしながら,紫外線領域では各材料の吸収損失が大きいため,紫外線波長域専用の集積型APDは実用化されていません。紫外線光波帯の高感度集積型APDが実用化されれば,医療分野だけでなく,微弱な紫外線光検出を必要とする天文分野,科学計測分野,次世代紫外線光ディスクなど多分野にわたり貢献できるものと期待されます。

現在実用化されているAPDの中で紫外線を検出可能なものはSi製のAPDがありますが,Siのバンドギャップが小さいため紫外線の感度は可視光の感度の3分の1まで減少します。また,動作電圧が150Vと高いという問題点もあります。そのため,国内外でZnSe,GaN,SiC,ZnOといったバンドギャップが大きい半導体を用いたAPD素子の開発が進められています。これらのバンドギャップが大きい半導体材料は理想的なダイオードを作製すれば,Siに比べて大幅に暗電流(ノイズ電流)を低減することができると期待されています。しかしながら,半導体の結晶欠陥により暗電流は理想値を大きく上回り,Siの暗電流を下回る特性を実現しているのは本研究で対象とするZnSe系のみです。

2.研究成果

本研究では,有機層としてPEDOT:PSSを無機層としてZnSSeを用いたZnSe系有機-無機ハイブリッド型アバランシェ・フォトダイオード(APD)において,低電圧動作かつ下記の低暗電流化(低ノイズ化)・安定動作化,および集積化を実現して,実用に供しうる紫外線領域の全固体高感度集積型光検出器(光センサー)を世界で初めて開発しました。

 

(1)低暗電流化・安定動作化・低電圧動作

インクジェット法によるPEDOT:PSS窓層の形成とポリイミド保護膜および窒素封止により,実用化されているSi-APDの暗電流と同程度の暗電流を実現し,APD動作直前(アバランシェブレークダウン直前)までの暗電流維持を実現しました(図1,2)。さらに,ポリイミド有機保護膜により有機-無機界面特有の劣化対策を行ったことにより,100日以上の長期間および500回以上繰り返しAPD動作においてこの低暗電流特性を維持(図1)して,本APDの実用化に大きく近付きました。また,動作電圧は25V程度と非常に小さく,Si-APDの6分の1,GaN-APDの3分の1であり(図2),集積化に非常に有利です。

(2)集積化

本研究のAPDは無機層最表面が高抵抗活性層であるため,素子を物理的に分離するエッチングなどによる素子間分離を必要としないプレーナー型構造を採ることが可能です(図3)。この特長を利用して,受光面である窓層のスポットによる素子間分離のみで3つのAPD素子を集積した集積型紫外線APD(図4上部)を世界で初めて実現しました。この集積型APD構造におけるAPD動作モードで(図4),検出可能なレベルの隣接素子間の光信号クロストークは観測されませんでした(図5)。つまり,集積型紫外線APDの実現に近付いたといえます。

3. 期待される波及効果

以上のように本研究のZnSe系有機-無機ハイブリッドAPDは,実用レベルの低暗電流・安定動作の可能性が十分にあることが見出されました。また,インクジェット法によるPEDOT:PSS窓層の形成により,同一ウエハ上(基板上)に独立したAPDを集積することが可能となり,従来の光電子増倍管やAPDでは成し得なかったAPDの集積化が実現可能になります。本APD集積化技術により,高感度・高速ラインスキャンが可能な1次元APDアレイ,微弱光撮像デバイス等の実現が期待されます。本研究による紫外線光波帯高感度集積型APDが実用化されれば,医療分野のみならず,天文分野,科学計測分野,次世代紫外線光ディスク,火炎センサー,ミサイル追尾など多様な分野にわたり貢献できるものと考えられます。

原論文情報

題目: ZnSe-based organic–inorganic hybrid structure ultraviolet avalanche photodiodes with long lifetime and its device integration

著者: Ryoichi Inoue, Tomoki Abe, Takeru Fujimoto, Noriyuki Ikadatsu, Kenta Tanaka, Shigeto Uchida, Akio Tazue, Hirofumi Kasada, Koshi Ando, and Kunio Ichino

雑誌名: Applied Physics Express

概要:

 We have developed organic [poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrene sulfonate) (PEDOT:PSS)]–inorganic [ZnSSe] hybrid structure ultraviolet avalanche photodiodes (UV-APDs) with a long device lifetime and integrated APD arrays. The active layer is ZnSSe grown by molecular beam epitaxy (MBE) and the window p*-type layer is PEDOT:PSS formed by the inkjet method. The device exhibits a lifetime of more than 100 d and an APD operation of more than 500 times. We integrated 3-element APD array separated only by a window spot of PEDOT:PSS. The present array device in the APD operation shows no detectable photosignal cross-talk between the neighboring APDs.


【参考図面】

 


              図1: ZnSe系有機-無機ハイブリッド型アバランシェ
                フォトダイオード(APD)の暗電流特性・寿命試験結果


                 図2: ZnSe系有機-無機ハイブリッド型APD,  
                      GaN, Si APDの暗電流特性

[1] J. B. Limb, D. Yoo, J. H. Ryou, W. Lee, S. C. Shen, R. D. Dupuis, M. L. Reed, C. J. Collins, M. Wraback, D. Hanser, E. Preble, N. M. Williams, and K. Evans, Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 011112.

[2] 浜松ホトニクス, データシート S12053-02, 短波長型APD, 600 nm 帯.

< http://www.hamamatsu.com/resources/pdf/ssd/s12053-02_etc_kapd1001e06.pdf >



       図3: ZnSe系有機-無機ハイブリッド型集積型APD



     
     図4: クロストーク測定系(上図は集積型APDの電子顕微鏡写真)


          
           図5:レーザー位置と3つのAPD素子の光電流との関係


【用語説明】

(1)アバランシェフォトダイオード(APD)

フォトダイオードは半導体pn接合ダイオードであり,バンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を照射したときに電流が流れて光を検出するものです。この中でアバランシェフォトダイオードは,大きな逆電圧をダイオードに加えた際の増倍作用を利用したものです。ダイオードに大きな逆電圧を加えるとpn接合部分の電子と正孔(電子の抜けた孔)が加速されて,原子と衝突して新たな電子・正孔が発生します。これを雪崩降伏(アバランシェブレークダウン)といい,この効果で信号電流を増幅するのがアバランシェフォトダイオードです。

(2)バンドギャップ

バンドギャップは半導体の重要なパラメータのひとつで,半導体はバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を吸収します。例えば,Si,GaAsなどは近赤外線よりも短い波長(大きいエネルギー)の光を吸収することができます。具体的には,Siは約1.1マイクロメートル以下の波長の光を吸収できます。これに対してワイドバンドギャップ半導体と呼ばれるバンドギャップの大きい半導体材料であるZnSe, GaN, ZnO, SiCなどは,青色~紫外線よりも短い波長(大きいエネルギー)の光を吸収します。このようにダイオードのpn接合部分の半導体が光を吸収すると,電子と正孔の対ができてダイオードに電流が流れます。この電流を信号として利用するのが光検出器で,電力として利用するのが太陽電池です。

(3)PEDOT:PSS

PEDOT:PSSは,ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルフォン酸の混合物であり,可視から紫外線領域まで透明な有機材料の導電膜(電流が流れる膜)です。半導体性質をもつことから有機半導体とも呼ばれ,PEDOT:PSSは正孔を輸送する性質(正孔輸送性)をもっています。また,PEDOT:PSSは正孔輸送性有機導電膜としては最も広く使用されている材料で,有機太陽電池の電極材料としても用いられています。

(4)クロストーク

クロストークとは,光検出器が平面上に並んで集積化されているとき,隣接する光検出器の間で起きる混信です。例えば,光検出器1,2があるとき,光検出器1のみに光が当たっている条件で,本来は電流が流れないはずの光検出器2に電流が流れる場合があります。これを光信号クロストークといい,集積型光検出器では誤検出になります。したがって,集積型光検出器では隣接する素子の間のクロストークがないことが要求されます。