新着情報

香月准教授らの研究グループが個人対応型ヒト化薬物代謝モデルマウスの作製に成功

2017年11月09日

塩基を変換したヒト化薬物代謝モデルマウスの作製に成功

―個別化医療のための新薬開発への応用に期待―

概要

 鳥取大学染色体工学研究センターの香月康宏准教授、千葉大学の小林カオル准教授、株式会社新日本科学の千田直人つくば分析ラボラトリ長、広島大学の山本卓教授、大阪大学の伊川正人教授らの研究グループは、人工染色体技術で作製したヒト化薬物代謝モデルマウスにおいて、ゲノム編集技術を用いて塩基を効率的に変換したヒト化薬物代謝モデルマウスの作製に成功しました。本成果は個別化医療に対応した新薬開発や、ヒト疾患モデル動物の作製につながる成果です。

 この研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループの学術誌「サイエンティフィックレポート(Scientific Reports)」オンライン版に2017年11月9日付(日本時間19時)に掲載されました。

背景

 実験動物とヒトでは薬物代謝関連遺伝子には種差があり、実験動物で得られた結果からヒトでの薬物代謝や安全性を予測できない場合が多くみられます。したがって、薬物代謝関連遺伝子をヒトと実験動物で置き換えたヒト化動物は、ヒト特異的な薬物代謝や安全性を予測する上で大きな役割を果たすと考えられます。薬物代謝酵素関連遺伝子は多くがMb単位の巨大な遺伝子クラスターとして存在するため、従来技術では一部の遺伝子しか導入できないという問題点があり、実用化には至っていないのが現状です。
 私たちはこれまでに、Mbサイズの遺伝子・複数の遺伝子が制限なく搭載可能な人工染色体技術を用いて、市販の薬物の50%を代謝するCYP3Aクラスター(約700 kb)を導入したマウスの作製に世界で初めて成功してきました。しかし、CYP遺伝子群には一塩基多型(SNP)が多数存在することが明らかとなっており、その中でもCYP3A5という遺伝子の一塩基多型はヒト特異的な薬物代謝能との相関が示唆されていました。日本人では薬物代謝能が不活性型のCYP3A5(*3)の頻度が高く、アフリカ系の欧米人では活性型のCYP3A5(*1)の頻度が高いといったように人種によっても遺伝子多型の頻度は異なっていることがわかっています。活性型(*1)では薬物代謝酵素CYP3A5のタンパク質の発現があるのに対し、CYP3A不活性型(*3)では、CYP3A5タンパク質の発現がほとんどみられません。これまで作製したヒト型のCYP3Aマウスは薬物代謝能が不活性型の日本人に多いタイプのCYP3A5(*3)でした。よって、このマウスでは活性型のCYP3A5(*1)の薬物代謝能をみることができませんでした。

研究手法・成果

 今回の研究では、これまでに人工染色体技術で作製したヒト型CYP3Aクラスター保持マウスにおいて、CYP3A5の遺伝子多型をゲノム編集技術により変換することに成功しました。

 鳥取大学が独自に開発した人工染色体技術は大きな遺伝子を導入することができる遺伝子のベクター(運び屋)であり、これまでに薬物代謝に関わる大きな遺伝子群をマウスに導入することに成功しています。一方、ゲノム編集技術は遺伝子を破壊することや、塩基を効率的に置換することができる技術で最近注目を浴びています。これらの二つの技術を融合して、個別化医療に対応したヒト型薬物代謝モデルマウスの作製に成功しました。

 CYP3A遺伝子クラスターにはCYP3A4, CYP3A5, CYP3A7, CYP3A43,という遺伝子配列が良く似た遺伝子が存在しますが、CYP3A5を活性型にするにはCYP3A5を特異的に1塩基置換する必要がありました。そのためにCRISPR/Cas9というゲノム編集技術を使ってCYP3A5特異的な改変を行いました。CYP3A遺伝子クラスターを保持するマウスES細胞ならびにCYP3A遺伝子クラスターを保持するマウス受精卵でその改変を行ったところ、マウスES細胞では約20%、マウス受精卵では約10%という高頻度で*3から*1への変換に成功しました。

 次に*3マウス(元のマウス)と*1マウス(変換後のマウス)の肝臓と小腸を用いてCYP3A4タンパク質とCYP3A5のタンパク質の定量解析を行ったところ、CYP3A4では両者に変化はなかったのに対し、CYP3A5では*3マウスよりも*1マウスにおいて肝臓と小腸両組織でタンパク質発現量が向上していることがわかりました。また、代謝活性能を調べたところ、*3マウスよりも*1マウスにおいて肝臓と小腸両組織で代謝活性能が向上していることがわかりました。すなわち、たった1塩基の変換(しかもタンパク質を作り出すエクソン領域ではないイントロン部分の変換)によって、タンパク質発現量およびそれに伴う代謝活性の上昇が確かめられました。すなわち、ヒトで報告されていた遺伝子型と代謝活性の相関性がマウスでも実証されました。このように人工染色体技術とゲノム編集技術の技術融合によるヒト化薬物代謝マウスの作製技術はヒト化薬物代謝マウスにおける1塩基多型の影響、ならびに個別化医療のための新薬開発への応用が期待されます。

 個人対応型ヒト化モデルマウスの作製に成功

波及効果、今後の予定

 新薬の研究開発費が年々増加しているにも関わらず、上市される医薬品の数はむしろ減少しています。この要因には薬物動態プロファイルの種差、ヒト特異的毒性発現等が挙げられ、シーズ探索から非臨床試験を経て治験を実施するまでには膨大なコストと時間を要します。一方、非臨床試験成績のヒトに対する安全性予測への外挿が難しいため、臨床試験になって予期せぬ毒性発現や期待される薬効が認められないなどの理由から開発中止にいたるケースが少なくありません。創薬プロセスの早い段階から効率的に創薬ターゲットを絞り込むための新規技術および試験系の開発が待望されています。

 一方、通常の遺伝子導入技術では宿主となる細胞のDNAの中に組み込まれてしまうため、組み込まれた場所によって遺伝子の発現が一定でなく、宿主の遺伝子を破壊するなどの問題があります。しかしながら、人工染色体技術はより大きなサイズの外来DNAを発現できるのみならず、通常の遺伝子導入と異なり、1) 宿主細胞には組み込まれない、2)一定のコピー数で安定に発現、3)宿主細胞の生理的な発現を再現できるなどの特徴があります。人工染色体技術を用いることにより様々なヒト型の代謝遺伝子を持つマウスの作製に利用できることから、上記の課題を克服できる技術となることが期待されています。

 さらに、本研究で開発したSNP対応型(個人対応型)ヒト化マウス作製の技術は個別化医療のための新薬開発へ応用できるものと考えられます。また、人工染色体は巨大な遺伝子を運ぶことができるため、ゲノム編集技術で原因遺伝子を疾患型に塩基置換することで、筋ジストロフィー等のヒトの難病モデルマウスの作製や疾患の治療法の開発にも応用できると期待されます。

研究プロジェクトについて

本研究は文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラム、持田記念医学薬学振興財団研究助成金、内藤記念科学奨励金、日本学術振興会最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援を受けました。本研究の一部は、鳥取県運営施設のとっとりバイオフロンティアにて行われました。

論文タイトルと著者