学長対談

  
 鳥取大学は、平成29年度に大規模な改組を行います。それは、地域と世界に貢献する鳥取大学ならではの教育・研究をさらに発展させるもので、それを進めていくためには地域社会や高校教育とのつながりは欠かせません。

 そこで今回は、鳥取県教育委員会の山本仁志教育長をお迎えし、世界を視野に入れた地域社会の教育力向上、地域の未来を担う人材の育成、高大接続の改善について豐島良太学長と本音で語り合っていただきました。


山本教育長

山本 仁志 やまもと ひとし

昭和35年鳥取県生まれ。
昭和58年大阪大学法学部卒業。
鳥取県入庁後、財政課課長補佐などを経て、交流推進課長、総務課長、市場開拓局長、
教育委員会事務局次長を歴任後、平成26年鳥取県教育委員会教育長に就任。

豊島学長
豊島 良太 てしま りょうた

昭和24年島根県生まれ。
昭和53年鳥取大学大学院医学研究科博士課程修了。
鳥取大学医学部附属病院助手などを経て、平成11年鳥取大学医学部教授。
鳥取大学医学部附属病院長、医学部長を歴任後、 平成25年鳥取大学長に就任。

急がれる「地域創生」。教育こそが最も有効なツール。

 

豊島学長豊島 日本は人口減少・高齢化が進み、労働人口が年々減っています。そんな中で東京一極集中が起こり、地域に人がいなくなった。そして鳥取県ではそれが顕著に表れました。衰退に歯止めをかけよう、地域創生によってもう一度盛り返そうということで、今教育が非常に重要だと叫ばれているのは、当然だと思います。地域に誇りを持たせる教育があってこそ人は地域に根付き、地域に貢献しようという気持ちになるのですから、教育が最も重要であると考えています。

山本 鳥取県民は人間性が真面目なんですよ。だから学校教育においても、東京に向けて優秀な人材を送り出そうと一生懸命にやってきた。それが今、裏目に出ているんでしょうね。先程学長が言われたように、これからは地域にしっかり根付いていく、そのために何をしたら良いかということをよくよく考えて教育をしていくべきではないかと思います。その一つは、鳥取県人としてのアイデンティティーをしっかりと育てること。それがあれば、東京に行こうが何をしようが、地域愛と誇りを持って活躍してくれるはず。では“鳥取県らしい教育”とは何なのか。それを今我々も懸命に模索しているところなんです。

豊島 鳥取大学では、「地(知)の拠点整備事業(COC)」や「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」など、地域に好奇心を持ち、自律的・継続的な改善を地域住民と一緒になって考え、実行する人材の育成とともに、魅力ある就業の場の開拓・創出に努め、その人材が地域に根付いてくれるような事業を展開しています。小手先ではない根本的な教育を、しぶとく根強くやっていく必要があると思います。

山本 そうですね。県内企業の知名度、優位性を示すことが必要だと思いますが、鳥取県人はPR下手ですよね(笑)。また今、かつてないほどのグローバル時代を迎えていますし、AI(人工知能)がすごい勢いで発展しています。新しい要素としてこれをしっかりと踏まえた対応をしていく必要があるのではないでしょうか。

豊島 確かに、AIに対しての対応は様々な面で必要でしょうね。子どもたちの就職の選択肢が狭まるのか広がるのかは皆目分かりませんが、そういう面では知識を集積してそれを理解し、総合的に判断して、自分自身の口で発表できる能力を持たせようというのは分かります。しかし、そのような理想を掲げて、100人が100人同じことをしていても面白くない。ノーベル賞を取る人も必要だし、日々に農産物を作る人も必要なのに、画一的に能力を引き上げていこう、全員が英語をペラペラと話さなくてはいけないというような教育は、一方では多様性と言いながら何か矛盾しているような気がします。

山本教育長山本 例えば小学1年生の児童に将来の夢やその理由を述べなさいと言っても、自分の夢をとうとうと語ることは到底無理です。それぞれの年齢に応じて題材や進め方を選んで、自分の考えを述べる訓練をする。そうやって段階的に力をつけていくことが大事だと思います。そして、どこまでを最低ラインとして一つの素養・教養を身につけさせるかだと思います。そのレベルをむやみに上げすぎると、学長がおっしゃるように多様性を否定することになるのだと思います。

豊島 でも日本の教育においては、学力テストや大学入試センター試験の点数でランク付けをして競い合わせているわけでしょう。

山本 それは、競争力をあおるところに狙いがあるわけではないと思うんです。こういった傾向の問題ができていない、教え方をどう工夫すれば良いのかという分析をして、しっかり振り返ることが本来の狙いではないでしょうか。そこを我々教育者がきちんと誘導していかないといけないと思っています。


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