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工学研究科の井澤浩則助教らが天然素材のみから微細構造表面の構築に成功

2015年10月26日

天然素材のみから微細構造表面の構築に成功

~ グリーンな素材とプロセスで創るバイオベースリンクル表面 ~

概要

 工学研究科の井澤浩則助教、斎本博之教授の研究グループは、カニ殻由来のキトサン、米ぬかに含まれるフェルラ酸やコーヒーに含まれるカフェ酸、西洋ワサビに含まれるペルオキシダーゼ酵素を用いて、フィルムの浸漬と乾燥だけの簡便なプロセスで微細構造表面を製造する手法の開発に成功しました。本研究成果は、天然の素材と簡便プロセスのみを用いて微細構造表面を製造した世界初の例であり、バイオマス資源を主体とした微細構造表面の製造における基盤技術になると期待されます。
 本研究成果はドイツの科学雑誌「ChemSusChem」のオンライン速報版に掲載されました。
 なお、本研究は、鳥取県環境学術研究等振興事業「カニ殻に含まれるキチン・キトサンを活用したバイオマテリアルの開発」(研究代表者:井澤浩則)の支援を受けて行われました。
 

研究背景

 ナノ・マイクロメートルオーダーの微細な表面構造は、材料の表面機能に関わる重要な要素です。動・植物は、永年の生存競争の末に獲得した高度な表面を有しており、それらは人工的に機能表面を作り出すためのお手本となります。例えば、ハスの葉の微細な表面構造をお手本に、汚れにくい陶器や建材が開発されています。自然界の表面構造の一つにリンクル(しわ)があります。これまでに、自然界のリンクルをお手本に微細構造表面の構築例が数多く報告されていますが、それらは合成樹脂と特殊な電子機器を用いて作られています。近年、化石資源を主体とした社会からバイオマス資源を主体としたバイオベースな社会への転換が求められていることから、バイオマス資源を用いるより低環境負荷なリンクル形成手法の開発に取り組みました。

研究成果

 本研究チームは、強靭な樹木の細胞壁のデザインに着目し、キトサンフィルム表面に酵素反応によって樹木のような硬い薄層(スキン層)を構築すると、フィルムの乾燥によりマイクロメートル(10-6m)オーダーのリンクルが発現することを発見しました。このリンクルは、フィルムの製造条件を変えることである程度サイズの制御が可能です。乾燥時に応力を加えるとリンクルの配向制御もできます。本手法は、特殊な機器を一切必要としないので、誰もが手軽に行うことができます。また、従来のリンクル形成手法では繊維のような三次元材料表面へのリンクル形成は困難でしたが、本手法は、繊維表面へのリンクル形成に適用可能であることも分かりました。

今後の展開

 本研究成果は、天然の素材と簡便プロセスのみを用いて微細構造表面を構築した世界初の例であり、バイオベースな微細構造表面の製造における基盤技術になると期待されます。本研究で得られるリンクル材料は、反応性の表面を有することから、さらなる表面改質が容易です。今後は、光学・電子材料、生体材料、細胞培養足場材料など多方面の応用が期待されます。

 

掲載論文

  • 題名:Bio-based wrinkled surfaces harnessed from biological design principles of wood and peroxidase activity
  • 雑誌名:ChemSusChem
  • オンラインURL:http://dx.doi.org/10.1002/cssc.201500819

(注)ChemSusChemはグリーンケミストリー分野の最有力誌の一つでImpact Factorは7.657である。


 <参考図>

 図1.本研究の概要


 図2.フェルラ酸(A)又はカフェ酸(B)を用いて得られるリンクル表面の例

 

用語解説

キトサン

カニ殻から得られるキチンの脱アセチル化で得られるアミノ多糖です。生体材料・医用材料としての活用が期待されています。

フェルラ酸

米ぬかなどから得られるフェノール誘導体です。

カフェ酸

コーヒーなどに含まれているフェノール誘導体です。

西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ

西洋ワサビに含まれる酸化酵素です。様々なフェノール誘導体の重合反応の触媒として幅広く用いられています。

リンクル

広義でしわを意味します。ここでは、自発的に構築されるマイクロメートルオーダーの微細構造表面を意味しています。