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農学部河野強教授らがインスリン分泌極性の可逆的変動を発見

2016年02月04日

インスリン分泌極性の可逆的変動を発見
~ インスリンは生育状況に応じて可逆的に分泌極性を変動し、分解されることを発見 ~

概要

 農学部生物有機化学分野・河野強教授、東京都健康長寿医療センター研究所(センター長:許 俊鋭)の老化制御研究チーム・本田修二研究員、米国エモリー大学(学長:James W Wagner)の病理学部・Guy M Benian教授らの研究グループは、モデル生物C. elegansを用いて腸で産生されるインスリンの分泌極性が生育状況によって可逆的に変化すること、腸管内に蓄積したインスリンは徐々に分解されることを発見しました。本研究成果は2016年2月3日午前10時に英国Nature Publishing Groupのオンライン科学誌「Nature Communications」に公開されました。

研究背景

 インスリン族ペプチドは様々な生命現象を制御します。糖の吸収だけでなく、細胞の分化・増殖や成長に関わっています。最近の研究により、インスリン族ペプチドは記憶、老化、寿命制御にも関わることが明らかとなっています。老化・寿命制御の研究でモデル生物として多用されている線虫C. elegansでは、休眠、病原菌の感染や酸化ストレス応答にもインスリン族ペプチドが関与しています。ゲノム配列が明らかとなっているC. elegansでは、40種のインスリン族ペプチドの存在が推定されています。しかしながら、これらのペプチドが生育状況に呼応してどのように休眠等を制御するのか不明のままでした。

研究成果

 河野強教授と本田修二研究員ならびにGuy M Benian教授らの研究グループは、モデル生物である線虫C. elegansを用いてインスリン族ペプチドの分泌極性が変動することを世界で初めて発見しました。さらに、この分泌極性が生育状況に呼応して可逆的に変動することを見いだしました。加えて、これらのペプチドは休眠時に徐々に分解されることも明らかにしました。休眠・寿命を制御するインスリン族ペプチドを緑色蛍光タンパクあるいは赤色蛍光タンパクに融合し、線虫体内で作らせました。蛍光観察を行ったところ、これらの蛍光タンパクは通常の生育では体腔中に分泌されました。一方、休眠時には分泌方向を変えて腸管内に蓄積しました。蓄積した蛍光タンパクは徐々に分解されました。再び通常の生育に戻ると、蛍光タンパクは体腔中に分泌されました。これらの結果から、休眠・寿命制御ペプチドは体腔側あるいは腸管側に分泌極性を可逆的に変動すること、腸管内で分解されることが明らかになりました。

今後の展開

 この研究で用いた「インスリンが光る線虫」を利用することで、インスリン分泌不全に起因する糖尿病に対する新たな治療薬の開発につながると期待されます。また、インスリンの分解を防ぐことによる糖尿病治療薬の開発にもつながると期待されます。

 

<掲載論文>

題名:Diapause is associated with a change in the polarity of secretion of insulin-like peptides

雑誌名:Nature Communications (出版社:Nature Publishing Group)

オンラインURL:http://www.nature.com/ncomms/2016/160203/ncomms10573/full/ncomms10573.html

 

<参考図>

可逆的分泌変動腸管におけるインスリンの分かい
             経時的に分解(蛍光の減衰)されます。

  

用語解説

インスリン族ペプチド

血糖値を下げるインスリンならびに構造上類似するインスリン様成長因子、リラキシン等の総称です。

 線虫C. elegans

シドニー・ブレナー博士(ノーベル賞受賞者)により見いだされた、発生・分化などの高次な生命現象を解明するためのモデル生物です。

 休眠

生育環境の悪化に応答して一時的に生育を停止し、生育環境が改善されると生育を再開する現象です。幅広い種の生物が持つ「生存戦略」の1つです。

 分泌極性

ホルモンなどが器官で産生されると細胞外に運ばれます(分泌)。その際の方向性(器官の外側か内側か)を極性といいます。