~キチンナノファイバーのアトピー性皮膚炎予防・治療などへの応用に期待~
概要
農学部 東和生助教らと工学研究科 伊福伸介准教授らの研究グループは、カニ・エビ殻を原料とする極細繊維、キチンナノファイバー(キチンNF)塗布によるアトピー性皮膚炎の進行抑制効果を明らかにしました。キチンNF塗布により、アトピー性皮膚炎の症状の進行が抑えられ、かつ皮膚の炎症の進行も抑えることが確認されました。しかしながら、従来のキチンには、それらの効果は認められませんでした。つまり、ナノファイバー(極細繊維)という形態が、皮膚のバリア機能の維持を可能にしていることが考えられます。本研究成果は、オンライン科学誌「Carbohydrate Polymers」(Elsevier B.V.社)にて公表されています。
研究背景
鳥取県はカニの水揚げが全国トップクラスです。カニを食した際の廃棄物となるカニの殻の有効利用が期待されています。カニ殻の主成分であるキチンをナノファイバーとして取り出したキチンナノファイバー(キチンNF)は、幅が約10ナノメートルの極細繊維です(図1)。さらにキチンNFは、処理により繊維の表面のみをキトサン化するといった改変も可能となっています。我々はこれまでに、キチンNFの肌に対する効果として保湿効果および傷の修復促進効果を確認しています。
研究成果
研究グループは、アトピー性皮膚炎モデルを用いてキチンNFがアトピー性皮膚炎の進行を抑制することを明らかにしました。キチンNF塗布により、アトピー性皮膚炎の症状の進行が抑えられ(図2)、かつ皮膚の炎症の進行も抑える(図3)ことが確認されました。キチンNF塗布により、炎症などの免疫反応において中心的役割を果たす転写因子NF-κBの働きが抑制され、血液中の免疫グロブリンE(IgE)濃度を減少させました(図4)。しかしながら、従来のキチンには、それらの効果は認められませんでした。したがって、ナノファイバーという形態が皮膚のバリア機能の維持を可能にしていることが考えられます。
今後の展開
今回の成果により、キチンNFの皮膚炎への応用が期待されます。具体的には、症状の悪化を予防するために使用する、薬と組み合わせ治療のために使用する、あるいは薬からのリバウンドを予防するために使用するといった応用が期待されます。それにより、使用する薬の量・頻度を減らすといったことが可能となるかもしれません。本研究成果はモデル動物での結果ですので、実際の使用に向けては今後さらなる検討が必要です。
掲載論文
題名: Chitin nanofibrils suppress skin inflammation in atopic dermatitis-like skin lesions in NC/Nga mice (和訳:キチンナノファイバーはNC/Ngaマウスにおいてアトピー性皮膚炎様の皮膚損傷を抑制する)
掲載雑誌名:Carbohydrate Polymers
参考図

図1.キチンナノファイバーの概要

図2.臨床スコア
キチンNFを塗布することで、アトピー性皮膚炎の症状の進行抑制が確認されました。アトピー性皮膚炎の際に使用されるステロイド塗布群よりも症状は軽減されていました。
コントロール群

キチンNF塗布群

図3.皮膚組織像
キチンNF塗布は表皮への炎症細胞の浸潤を抑制しました。

図4.血清IgE濃度
キチンNF(CNFs)塗布により、血清IgE濃度は低値を示しました。control: アトピー性皮膚炎群、CNFs:キチンNF塗布群、S:ステロイド塗布群
用語解説
カニ殻の主成分で、一般的にはキトサンやグルコサミンの原料となります。これまでにも、食品添加物としての使用実績があります。
アトピー性皮膚炎は表皮の異常による皮膚の乾燥とバリア機能異常により様々な刺激やアレルギー反応が関与して生じる、慢性炎症と掻痒を特徴とする皮膚炎の一つと考えられています。
ストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化され、炎症などの免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つです。アトピー性皮膚炎をはじめとする炎症やガンなどとの関連が明らかとなっています。
アレルギー反応において中心的な役割を果たす分子の一つです。アレルギー疾患を持つ患者さんの血液中では濃度が上昇し、かゆみ物質などの急速な放出を促します。