オオムギの穂の形を制御する仕組みを発見
〜たった1つの遺伝子を改変することで穀粒サイズ増が可能に〜
概要
鳥取大学農学部の佐久間俊助教、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構次世代作物開発研究センターの小松田隆夫主席研究員らの国際共同研究グループは、オオムギの穂の形を制御する仕組みを明らかにしました。
本研究成果は、2017年11月3日に「Plant Physiology」電子版に公開されました。
研究の背景
オオムギは世界各地で広く栽培される主要穀物で、穂の形によって二条オオムギと六条オオムギに分けることができます。二条オオムギはビール醸造用として、六条オオムギは食品や飼料に利用されています。二条と六条の違いは、転写因子をコードするVrs1遺伝子によって制御されます。Vrs1遺伝子が正常に機能する二条オオムギでは、側列小花の発達が抑制され、種子を作ることができません。一方、六条オオムギはVrs1遺伝子の機能が失われているため、側列小花が発達して種子を作ることができます。ヨーロッパでは最近、通常の二条オオムギより側列小花が極端に小さく、穀粒サイズが大きい"deficiens"と呼ばれる穂を持つオオムギが優先的に育種されています。deficiensはVrs1対立遺伝子の1つと考えられてきましたが、その原因となる遺伝変異は長く不明のままでした。
研究成果
分子遺伝学的解析の結果、VRS1転写因子の1つのアミノ酸が変異することによってdeficiensの形が決まることを突き止めました。また、この変異によって穀粒サイズが約10%大きくなることを明らかにしました。トランスクリプトーム解析によって、deficiensオオムギの穂では細胞分裂の活性化に関与するヒストンファミリー遺伝子の発現が上昇していることを見出しました。ハプロタイプ分析により、deficiens型のVrs1.t1対立遺伝子を持つオオムギはVrs1.b2対立遺伝子を持つ北アフリカ在来種に由来することを明らかにしました。
今後の展開
本研究によって、オオムギの穂の形を変えることで穀粒サイズを改良できることがわかりました。特定した遺伝変異はDNAマーカーとして育種利用することが可能です。しかしながら、オオムギ、コムギなどの麦類において穂の発達を制御する仕組みについての理解はまだ深まっていないのが現状です。麦類の収量アップにつながる遺伝子の単離、機能解明に関する研究の進展が必要とされます。
掲載論文
- タイトル:Extreme suppression of lateral floret development by a single amino acid change in the VRS1 transcription factor
- 著者:Shun Sakuma, Udda Lundqvist, Yusuke Kakei, Venkatasubbu Thirulogachandar, Takako Suzuki, Kiyosumi Hori, Jianzhong Wu, Akemi Tagiri, Twan Rutten, Ravi Koppolu, Yukihisa Shimada, Kelly Houston, William T. B. Thomas, Robbie Waugh, Thorsten Schnurbusch, Takao Komatsuda
- 掲載誌名:Plant Physiology
参考図

図1.オオムギの穂の構造
二条オオムギは種子を作る主列小花1個と作らない側列小花2個が存在する。通常、側列小花は図のようにある程度発達するが、deficiensタイプは極度に発達が抑制されている。また、deficiensでは通常型に比べて種子サイズが大きい。

図2.deficiensの原因となる遺伝変異
VRS1転写因子の1アミノ酸変異によって側列小花の発達が極度に抑えられ、deficiensタイプの穂が作られる。
用語解説
特定のDNA配列に結合し、近傍にある遺伝子の転写 (DNA配列を元にRNAを合成すること) を促進あるいは抑制するタンパク質。
細胞内における遺伝子転写産物 (RNA) の量を網羅的に測定し、遺伝子発現の変化を把握する方法。
DNA配列を比較することで、 ある集団の多様性、進化を推定する方法。