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今季の高病原性鳥インフルエンザウイルス国内初分離

2017年11月28日

今シーズンの高病原性鳥インフルエンザウイルス国内初分離株の遺伝子性状

〜ウイルスの由来と病原性〜

概要

 2017年11月、島根県で回収されたコブハクチョウの死体から、H5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスが今シーズン国内で初めて分離されました。本学において分離されたウイルスの全長遺伝子を解析した結果、このウイルスは昨シーズンの国内流行株とは由来の異なるウイルスであることがわかりました。またこのウイルスは昨シーズン、ヨーロッパ等で流行したH5亜型のウイルスとユーラシアに広く分布する野生水禽由来N6亜型のウイルスとの遺伝子再集合体であり、今シーズン新たに国内に侵入したものと推定されました。さらに、このウイルスの遺伝子にはこれまでに報告されている人への感染性に関与すると考えられる変異は認められなかったことから、本ウイルスが直接、人に感染する可能性は低いと考えられます。

背景

 昨シーズンは韓国において、H5N6亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスによる流行が全国に広がり、発生件数合計383件、殺処分羽数およそ3,700万羽を超える過去最大規模な流行がありました。一方、我が国においても、ほぼ同時期に、9道県計12農場において発生が確認され、また野鳥等においても過去最多となる218例の発生が報告されました。このH5N6亜型のウイルスは、2013年に中国江蘇省で初めて検出され、その後翌2014年にはすでに中国国内に広く蔓延して、さらにベトナムやラオスなど東南アジア諸国にも流行が広がったものと考えられています。
 一方、ヨーロッパ諸国においてはH5N8亜型のウイルスが2014年以降、各国で流行を繰り返し、昨シーズンは23カ国、今シーズンもすでにイタリアやロシアなどで流行が確認されています。

経緯

 2017年11月5日、島根県松江市で発見されたコブハクチョウの死体から採取された気管および総排泄腔スワブ検体において、A型インフルエンザ簡易診断キットで陽性反応が認められたことから、環境省「野鳥における鳥インフルエンザウイルス保有状況調査」の確定診断機関の一つである、本学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターにおいて、同検体からのウイルス分離、亜型同定および病原性試験の実施とともに、ウイルス全長遺伝子の解析が行われました。

内容・意義

  1.  インフルエンザウイルスの遺伝子は分節と呼ばれる8本のRNAからなり、それぞれの遺伝子がコードする主要なタンパク質により、PB1, PB2, PA, HA, NP, NA, M, NS遺伝子と呼ばれています。今回の分離ウイルス(以下島根2017株)の8本の遺伝子分節は、昨シーズンのH5N6亜型の国内流行株との相同性がいずれも94%以下であり、本ウイルスが昨シーズンの国内流行株とは由来の異なる別のウイルスであることがわかりました。さらに、本ウイルスのNA遺伝子以外の7本の遺伝子分節は昨年、ヨーロッパ諸国で流行していたH5N8亜型のウイルスのそれらと99%以上の最も高い相同性を示し、またNA遺伝子はユーラシアに従来から広く分布する野生水禽由来のN6亜型ウイルスのそれらと最も高い97%以上の相同性を示しました。以上のことから、本ウイルスは昨シーズン、ヨーロッパ等で家禽に流行したH5亜型ウイルスと野生水禽由来N6亜型ウイルスとの遺伝子再集合ウイルスであることがわかりました。
  2.  OIE(国際獣疫事務局)が規定する方法に準じて、鶏への静脈内接種による病原性試験を実施した結果、全羽48時間以内に死亡が確認されたことから、本ウイルスは鶏に対して高い病原性を示す高病原性鳥インフルエンザウイルスであることが確認されました。また、自然感染経路に近いと考えられる鶏への経鼻接種による感染実験においては、106個のウイルス接種群では3日以内に全羽死亡し、104接種群では全羽生残したことから、本ウイルスは昨シーズンの国内流行株と比較して、同程度の病原性を持つウイルスであると考えられました。
  3.  インフルエンザウイルスが細胞に感染する際には、HAタンパク質が細胞表面の受容体に吸着しますが、鳥類とほ乳類では受容体が異なることが知られています。島根2017株のHAタンパク質の宿主細胞への吸着に関与するアミノ酸残基は、鳥型受容体に特異性を示す配列でした。その他のウイルスタンパク質のアミノ酸配列においても、ほ乳類や人への感染性を獲得するようなアミノ酸置換は認められませんでした。また、NAタンパク質にはノイラミニダーゼ阻害剤耐性に関与するアミノ酸置換は認められませんでした。以上の成績からこのウイルスが直接、人に感染する可能性は低いと推定されました。

今後の予定

 本ウイルスの遺伝子配列情報は国際塩基配列データベースに公開予定です。引き続き、他の国内分離株や韓国分離株の遺伝子性状と比較解析するとともに、ウイルスの抗原性についても詳細に解析する予定です。また鶏やあひる、野生ほ乳動物等に対する感受性、病原性、伝播力等についても明らかにしていく予定です。それらの研究成果が、今後の流行予測あるいは防疫対策強化につながるものと期待しています。

参考図

島根2017株のHA遺伝子系統樹

図1.島根2017株のHA遺伝子系統樹

島根2017株の遺伝子構成

図2.島根2017株の遺伝子構成

用語解説

高病原性鳥インフルエンザウイルス

鶏に対して高い致死性と強い伝播性を示すA型インフルエンザウイルスのこと。厳密にはOIE(国際獣疫事務局)の定めた3つの基準で定義される。

亜型(A型インフルエンザウイルスの血清亜型)

細胞内における遺伝子転写産物 (RNA) の量を網羅的に測定し、遺伝子発現の変化を把握する方法。

遺伝子再集合

インフルエンザウイルスの遺伝子は、8本のRNA分節に分かれている。そのため、由来の異なる2つのインフルエンザウイルスが、同一の細胞に同時感染した場合、細胞内でそれぞれのウイルスの遺伝子分節の入れ替えが起こり、新たな組み合わせの遺伝子分節を持ったウイルスが生じる。この現象を遺伝子再集合という。