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植物ホルモンの生合成の鍵となる酵素の立体構造を解明しました

2019年06月11日

植物ホルモンの生合成の鍵となる酵素の立体構造を解明

〜基質認識メカニズムを解明し植物の成長を制御する新規農薬の開発が可能に〜

概要

 工学部の永野真吾教授、日野智也准教授、藤山敬介氏(大学院工学研究科博士後期課程2年)及び神戸大学大学院農学研究科の水谷正治准教授らの共同研究グループは、植物の成長に関わるステロイドホルモン「ブラシノステロイド(BR)」の生合成において重要な役割を担う酵素「CYP90B1」の立体構造決定に成功しました。植物ホルモンの生合成に関与する膜結合型シトクロムP450(CYP, P450)の立体構造解明は、本研究が世界初となります。

 BRは植物ステロールの一種であるカンペステロールを出発材料とし、様々な酵素による触媒反応を経て生合成されます。その初発反応はカンペステロールの22位炭素原子とそれに結合した水素原子との間に一つの酸素原子を挿入する水酸化反応です。22位炭素原子には2つの水素原子が結合しているため、鏡像異性体となる2種類の水酸化型カンペステロールが存在しますが、その片方((22S)-OHカンペステロール)のみが生理活性を示すことが知られており、植物が正常に生育するためには、生合成過程でこれらの鏡像異性体を作り分ける精緻な反応制御機構が不可欠です。私たちは、この反応過程を担うCYP90B1について、カンペステロールに類似したコレステロール結合型の構造をX線結晶構造解析で決定し、それに基づいた分子シミュレーション手法により、カンペステロールがどのようにこの酵素に結合しているのか、詳細に解析しました。その結果、カンペステロールが持つ24位メチル基が立体障害となり、22位炭素の2つのC-H結合の一つのみに対して酸素添加反応が可能となるため、厳密に片方の鏡像異性体だけが合成される仕組みを明らかにしました。さらに、CYP90B1を標的として植物の成長を制御する農薬分子との複合体の立体構造も決定し、農薬の作用機構を明らかにしました。本研究成果により、CYP90B1の立体構造を基盤とする新規農薬分子の合理的な設計など、農業分野への応用が期待されます。
 今回の成果は英国の科学雑誌『Nature Plants』で2019年6月10日付、日本時間2019年6月11日に掲載されました。

※詳細はプレスリリース(PDF 458KB)をご覧ください。
 

参考図.ブラシノステロイド生合成とCYP90B1


研究助成

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の以下の課題により、SPring-8での構造解析に関する支援が行われました。

  • 研究課題名:「創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化(SPring-8/SACLAにおけるタンパク質立体構造解析の支援および高度化)」
  • 研究代表者:山本雅貴(理化学研究所放射光科学研究センター 部門長)

掲載論文

用語解説

ブラシノステロイド

植物ホルモンの一種。植物が生産・利用するステロイドホルモンであり、現在、約70種の類縁体が確認されている。植物の伸長成長やストレス耐性などに関わり、極微量で強力な生理活性を示すことが知られている。

シトクロムP450 (P450, CYP)

活性部位にヘムと呼ばれる色素を持つヘムタンパク質の一種。還元型に一酸化炭素を結合させると450nm付近の波長の光を吸収する特徴から、「P450」という名前がついた。多様な生物で存在が確認されており、薬物代謝やホルモンの生合成、二次代謝産物の生合成・代謝酵素として機能する。

X線結晶構造解析

単結晶に対してX線を照射することで得られる回折を分析することで、結晶を構成する原子の空間的な座標を決定する手法。タンパク質の立体構造の決定法として有効な手段の一つであり、タンパク質の結晶を作製する必要がある。