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肝疾患治療用細胞シート移植により肝硬変の治療に成功
大学院医学系研究科の板場助教、汐田教授らの研究グループが
肝疾患治療用細胞シート移植による肝硬変の治療に成功
概要
このたび、大学院医学系研究科遺伝子医療学部門の板場則子助教、汐田剛史教授らの研究グループが、肝硬変の抑制に有効な肝疾患治療用の細胞シートの開発に成功し、肝硬変モデルマウスでの治療効果およびその治療メカニズムの概要を明らかにしました。
同細胞シートは、骨髄から調整した間葉系幹細胞に、特定の薬剤を加えることで、肝硬変を生じた組織の中の線維を溶かすのに有効なタンパク群を誘導し、元々の間葉系幹細胞よりも治療効果の高い細胞シートを作り出すことができる技術となります。
本研究成果は2019年5月2日付英国科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。
なお、本研究は、文部科学省再生医療の実現化プロジェクト(第II期)、国立研究開発法人科学技術振興機構の大学発新産業創出プログラム(START)プロジェクトなどの支援を受けて行われました。
研究背景
重度の肝硬変(非代償性肝硬変)は予後不良の疾患ですが、根本的な治療薬は存在せず、生体肝移植が唯一の根治療法となります。しかし、ドナー不足の問題により肝移植が受けられるのは約500名程度の患者さまのみとなることから、iPS細胞や組織幹細胞を使用した再生医療の研究開発が国内外で進められています。
組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は、肝硬変に対する細胞移植療法の臨床研究が国内外で進められ、肝機能の改善などが報告されています。細胞移植療法では血管を介した移植処置がとられるため、塞栓の問題から一度に移植できる細胞数が限られ、疾患によっては繰り返しの細胞移植が必要となるケースも生じます。これら移植細胞数の制限、塞栓の問題をも回避可能な移植技術として、細胞シート移植療法が挙げられます。
本研究グループは、2015年に温度応答性培養皿による細胞シート作製技術に加え、細胞ソースとして間葉系幹細胞、肝細胞分化誘導剤として低分子化合物(ヘキサクロロフェン)を利用する安全性に優れた肝疾患治療用細胞シートを開発し、同シートがすぐれた急性肝障害抑制効果を示すことを報告しました(図1, Sci Rep. 2015;5:16169.)。
さらに、医工連携による共同研究により、この肝疾患治療用細胞シートの製作に適した薬剤を新規に創出し、従来の薬剤よりも急性肝障害抑制効果に優れた細胞シートを「IC-2」と名付けた薬剤により製作できることを2018年に報告しました(図2, Regen Ther. 2018; 9:45-57)。
研究成果
独自に開発した薬剤「IC-2」を間葉系幹細胞に加えて製作する肝疾患治療用細胞シートが肝硬変を治療可能か、肝硬変モデルマウスで実証すること目的として研究を行いました(図3)。
IC-2を間葉系幹細胞に加えて製作した肝疾患治療用細胞シート(図4内、IC-2 sheetと表記)は、移植処置を施さないマウス(図4内、shamと表記)と比較して、肝臓中の線維の蓄積が解消していました。この線維の解消効果はIC-2を加えずに製作する細胞シート(図4内、MSC sheetと表記)よりも肝疾患治療用細胞シートの方が高く、肝疾患治療用細胞シート移植群ではその抑制効果は移植処置を施さないマウスと比較して約40%もの線維の低減効果が認められました(図4)。
また本研究では、肝疾患治療用細胞シートの作用機序として、IC-2を間葉系幹細胞に加えることで線維融解因子群が誘導され、細胞シート外へ分泌すること(図5)が重要であることを見出しました。これらの中でも、特に肝硬変の組織中に最も過剰に蓄積するI型コラーゲンを分解することが可能なマトリックスメタロプロテアーゼ-14(MMP-14)が重要であることを明らかにしました。
本研究成果の概要を図6に示します。温度応答性培養皿上で、本研究グループにより独自に開発した薬剤「IC-2」を間葉系幹細胞に加え製作する肝疾患治療用細胞シートは、線維の融解にはたらく種々の因子を細胞シート外へ分泌し、肝臓全体にわたって線維を減らすことが可能です。本細胞シートは、今まで治療法がほとんど無かった重症肝硬変に対して、肝線維化を標的として作用し、著明な効果を発揮する画期的治療法です。
今後の展望
肝硬変モデルマウスでは、細胞シートの移植を施さないマウスと比較して、約40%もの線維化の抑制効果が認められました。本成果を基盤として、いまだ有効な治療法が確立されていない肝硬変に対する再生医療技術として実用化を目指します。
掲載論文
題名:Reversal of established liver fibrosis by IC-2-engineered mesenchymal stem cell sheets(和訳:間葉系幹細胞をIC-2により改変し作製した細胞シートによる完成された肝線維症の改善効果)
掲載雑誌名:英国科学雑誌『Scientific Reports』
オンライン版URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-43298-0
参考図

図1.肝疾患治療用細胞シートの急性肝障害抑制効果
図2.IC-2を使用し製作した肝疾患治療用細胞シートの急性肝障害抑制効果
図3.本研究の目的
図4.肝疾患治療用細胞シートによる肝線維化の抑制効果
図5.IC-2による線維融解因子群の産生亢進
図6.肝疾患治療用細胞シートによる肝硬変治療のメカニズム
研究グループ
- 板場則子助教(大学院医学系研究科遺伝子医療学部門)
- 河野洋平助教(カノンキュア株式会社研究員(現 大学院医学系研究科遺伝子医療学部門))
- 尾﨑充彦准教授(医学部生命科学科病態生化学分野)
- 加久田博貴准教授(岡山大学)
- 森本稔准教授(研究推進機構)
- 汐田剛史教授(大学院医学系研究科遺伝子医療学部門)