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【研究成果】稲葉准教授、松浦教授らが、光刺激によるペプチドナノファイバー形成を駆動力として、マイクロメートルサイズのDNA球状集合体(ヌクレオスフェア)の運動推進と運動方向制御に成功
光から逃げる方向に運動する「負の走光性」を有する人工システムの構築に成功:ファイバー形成を駆動力とした初めての走光性分子システム
ポイント
・光刺激によるペプチドナノファイバー形成を駆動力として、マイクロメートルサイズのDNA球状集合体(ヌクレオスフェア)の運動推進に成功した。
・ヌクレオスフェアは光から逃げる方向に運動する「負の走光性」を有することが明らかとなった。
・ペプチドナノファイバー形成を駆動力とした運動システムに走光性を付与した初めての例であり、生物の運動システムの解明や分子輸送システムへの応用が期待される。
概要
鳥取大学学術研究院工学系部門の稲葉央准教授、松浦和則教授らの研究グループは、光刺激によるペプチドナノファイバー形成を駆動力として、マイクロメートルサイズのDNA球状集合体(ヌクレオスフェア)*1の運動推進と運動方向制御に成功しました(図1)。天然には、緑藻類のクラミドモナスに見られるような光の方向に応じて運動方向が変わる「走光性」*2を有する生物が存在します。走光性を有する人工分子システムの開発が世界中で行われていますが、その運動を誘起する方法は限られたものでした。本研究では、独自に開発した光刺激によるペプチドナノファイバー形成を駆動力とした運動システムを利用することで、ヌクレオスフェアに光照射方向から逃げる「負の走光性」を付与することに成功しました。本成果により、生物の運動システムの理解や、新たな人工分子輸送システムとしての応用が期待されます。
本研究成果は、公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団および文部科学省科研費学術変革領域研究(A)「分子サイバネティクス」の支援により得られたもので、2021年4月22日にアメリカ化学会が発行する「ACS Applied Bio Materials」のオンライン版に掲載され、Supplementary Coverに選出されました。
図1. 本研究の概念図。(a) 自己集合ペプチドとDNAを光解離部位で連結したコンジュゲート3。UV光照射によりペプチドが遊離し、自己集合によりナノファイバーを形成する。(b) コンジュゲート3を修飾したDNA球状集合体(ヌクレオスフェア)に光照射を行うと、光照射面で光解離反応が起き、局所的なペプチドナノファイバー成長が駆動力となり光から逃げる方向への運動が推進される。
研究背景
生物の中には光の方向に応じて運動方向が変わるものが存在し、例えば緑藻類のクラミドモナスは状況に応じて光に近付く「正の走光性」と光から遠ざかる「負の走光性」を使い分けています(図2)。このような走光性を有する人工分子システムが開発できれば、局所的な分子輸送や、分子ロボットの基盤技術としての応用が期待できます。我々はこれまでに、アクチンフィラメント形成を駆動力として運動する赤痢菌やリステリアから着想を得て、光照射によってジャイアントリポソーム*3上でペプチドナノファイバー形成を誘起することで、その並進運動推進に成功しています(Sci. Rep., 2018, 8, 6243)。しかし、その運動方向は光照射方向に関わらずランダムであり、走光性は見られませんでした。その理由として、リポソームは中空構造であるため、光が透過して光照射方向とは関係なくランダムにナノファイバー形成したためだと考えられます。そこで、内部までDNAが詰まったヌクレオスフェアを新たな「車体」として用いることで、光照射面でのみペプチドナノファイバー形成を誘起し、走光性を付与できると考えました。
図2. クラミドモナスの走光性
研究内容
まず、DNAと自己集合部位であるβシート形成ペプチドを光解離性アミノ酸で連結したペプチド-DNAコンジュゲートを作製しました。このコンジュゲートにUV光(365 nm)を照射すると、ペプチド部位が脱離し、自己集合してナノファイバーを形成します。本研究では、これまでに開発したコンジュゲート1および2を改良し、均一なナノファイバーを速く形成するコンジュゲート3を用いました(図1a)。ヌクレオスフェア(NS)表面にコンジュゲート3を修飾した3-NSを調製し、光学顕微鏡による観察を行いました(図1b)。観察時に右側からUV光を照射したところ、光から逃げる方向に運動する負の走光性が見られました(図3a)。一方で光照射を行わない場合や、コンジュゲート3の代わりにDNA(dA20)のみを修飾したdA20-NSに光照射を行なった場合は、そのような方向性のある運動は確認されませんでした。また、その運動速度はコンジュゲート3の濃度に依存して増大することがわかりました(図3b)。したがって、コンジュゲート3を修飾することで、光照射によりヌクレオスフェア上でナノファイバー形成が誘起され、運動が推進されたと考えられます。実際に、3-NSに光照射を行うとその表面で非対称的にナノファイバーの集合体の形成が確認されました(図4)。以上より、ヌクレオスフェアを用いることで、光照射による非対称的なナノファイバー形成を駆動力とした負の走光性を有する人工分子システムの開発に成功しました。
図3. (a) コンジュゲート3修飾ヌクレオスフェア(3-NS)の運動の軌跡。13分間で初期位置からどのように移動したか示している。各色が別々の3-NSを示す。(b) ヌクレオスフェアの初期位置からの移動距離の時間変化。3-NSは光照射により運動が推進されていることがわかる。
図4. 光照射前後の3-NSの共焦点レーザー蛍光顕微鏡像。ヌクレオスフェアをDNA染色剤(シアン)で染色しており、コンジュゲート3には蛍光色素(赤)を連結してある。光照射により、ヌクレオスフェア表面にナノファイバーの集合体と思われる構造体が確認された。
用語解説
三つの自己相補性末端を有する三叉路DNAからなるマイクロメートル(0.001ミリメートル)サイズの球状構造体(K. Matsuura, Biomacromolecules, 2007, 8, 2726)。三種類のDNAを混合し、加熱、徐冷することで自発的に内部がDNAで詰まった中実の球状集合体を形成する。
*2 走光性
走性の一つであり、光刺激に応じて運動することを示す。光の方向に近づく運動を「正の走光性」、光から離れる運動を「負の走光性」という。蛾やハエなどは正の走光性を有し、ミミズやゴキブリなどは負の走光性を有する。クラミドモナスは正の走光性、負の走光性を併せ持ち、状況に応じて使い分けている。
*3 ジャイアントリポソーム
リン脂質などから構成される、脂質二分子膜を持つ1~100 μm程度の球状小胞を指す。この研究では10~20 μm程度のジャイアントリポソームを用いた。中空構造であるため、光は透過すると考えられる。
論文情報
著者名:Hiroshi Inaba,* Kenji Hatta, Kazunori Matsuura*
掲載誌:ACS Applied Bio Materials
DOI: 10.1021/acsabm.1c00146